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恋噺 / 真打披露口上

2012/05/11 (Fri) - 連載 / 小話

書きたくなったのでものすごく簡単にざっくりですがつづきから。
更新日記はいっこしたです。



緋毛氈の上、頭を下げたままのはや瀬を挟んで四人の師匠方が並ぶ。視線を持ち上げると、高座をいっぱいに使った披露口上の席からは、寄席がいつもとは違うふうに見えた。
立ち見も入った客席のひとりひとりと目を合わせるような思いで、はや瀬は目を細める。
司会役の師匠が口上に並ぶ四人の紹介をし、それぞれ、所属協会の会長、兄弟子、それから師匠。
「それでは、新真打の師匠、とよ瀬より口上申し上げます」
とよ瀬の番は最後だった。隣で、深く息を吸う気配がした。
「本日は、あたしの一番弟子のためにみなさまお運びいただきまして、まことにありがとうございます。こいつは、よくできた弟子です。なんせあたしを師匠に選んだやつですからね、センスってもんがありますな」
客席からくすくす笑い声がする。泣きそうになった。師匠には迷惑ばかりかけてきた。このひとが好きだから入門したのだ。
「そのセンス、噺のほうにも活かせるやつでしてね。落語馬鹿で、よく稽古し、よく喋るようなやつです。師匠んとこの弟子いいねぇ、なんてお客様に褒めていただくとわがことのようでありました。親孝行な弟子です」
いよいよすすり泣きしてしまいそうになり、唇を噛む。目頭が熱い。とよ瀬は、温情は見せるものの、はっきりとした言葉にしてくれたことはあまりない。
こんなふうに思っていてくれるなんて、本当に、弟子にとってもらえてよかった。
「──昨年でしたか、いろいろあって、こいつは落語ができなくなりました。落語馬鹿のこと、さぞつらかったろうと思います。ですが、無事に高座に帰ってこられ、こうしておめでたい場所に並ばせていただいております。この男は商売敵であり、大事な一番弟子です。ですが、今までのはや瀬を作ったのも、これからのはや瀬を作るのも、お客様方です。師匠、仲間だけの力ではどうにもやってはいけません。どうぞ、今後とも緑亭はや瀬、お引き立てのほど、どうぞ、どうぞよろしくお願いいたします」
とよ瀬が頭を下げたのに合わせ、高座の四人と、はや瀬が改めて深く礼をする。たぶん、楽屋にいってとよ瀬になにか言ってもとりあってはくれないだろう。そんな照れくさいこと、裏でまでやるかと、かわされてしまうだろう。けれどもそれでもいい。
これから披露興行の間じゅう、欠かさず感謝を伝え、トリを勤め上げる。そういう、親孝行がしたい。
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